いとしいこどもたちに祝福を【前編】
――後に晴海は、今回のことなどまだ序の口に過ぎないことを思い知ることになった。

陸は、日常会話には支障はないものの時折晴海が困惑してしまう程、知識に偏りがあるのだ。

能力や魔法に関することは非常に詳しく知っているのに、誰もが知っている筈の動物や道具の名前を知らない。

その上、妙なのは――知らないと言った道具の扱い方を知っていたり、教えられた知識をすぐに使いこなすことだ。

包丁や鋏の持ち方や用途を知らないと言いながら、いざ持たせてみると本当は知っていたのではと勘繰る程自然に扱って見せる。

一体陸は今まで、何処でどんな生活を送っていたのだろう。

訊きたいけど、訊けない。

訊いたら、陸は何処かへ行ってしまうかも知れない。

そしたら、もう二度と逢えなくなる気がする。

なら自分の訊きたいことは多少我慢したって、構わないと思った。



「――このくらいで、いい?あんまり変わってないかもだけど…」

髪を切り終えて陸に鏡を手渡すと、陸はうん、小さく頷いた。

「首の後ろ、かなり涼しくなった。有難う、晴」

「陸って少し癖っ毛だよね。私とか母さんみたいな直毛より、だいぶ切り易かったよ」

実を言えば身内以外の髪を切るのは初めてで、最初の鋏を入れるときは少々緊張していたのだが。

「晴は料理も上手だし…何でも出来るんだな。凄いよ」

屈託なくそんなことを言われ、思わず頬が熱くなった。
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