赤ずきんは狼と恋に落ちる
テーブルに向かい合って座る、私と宇佐城さん。
男の人と同居だなんて、考えてもなかったから、最初に何を決めるのか分からない。
……そうだ。
「寝る部屋を決めましょうか。奥に1つ空いてる部屋があるので、そこを好きに使ってください。あとは……」
「りこさん」
「はい?」
指を折りながら考えていると、宇佐城さんに呼び止められる。
「せっかく一緒に住むんですし、もっとくだけた言い方でいいですよ?」
くだけた、言い方。
「敬語なんて使わないでいいんですよ。俺がお世話になる側なんですから。もっと、こう……、『この部屋使え!』って感じで」
「そ、そんなの無理です!私宇佐城さんに…」
「宇佐城さんって言うのもダメです。名前で結構ですよ」
いきなりハードルが高すぎる。
元彼も苗字にさん付けで呼んでいたのに。
でもせっかく言ってくれてるんだし、これから彼と同居するのだ。
彼にとっても、気楽な方が良いだろう。
「嫌、ですか?」
「嫌じゃないです!むしろそっちの方が良いかなって……」
「良かった」
むしろ私が嬉しいです、なんて言わず。
「あ、じゃあ千景さん、って呼んでもいいですか?」
「さんなんて付けなくてもいいんですよ?」
「……もっと、一緒に居たらそのうち慣れると思います……」
申し訳なさいっぱいの私に、
「じゃあ、くだけて話してくれるのも、名前も、慣れるの待ってます」
と、笑って言ってくれた。
「なら、千……景さんも話す時は普通に話しちゃっても構いませんよ。そうじゃないと、何だか緊張しちゃって……」
「良いんですか?」
私だけだと、妙に余所余所しく感じてしまう。
「じゃ、そうさせてもらうわ」
ぽんぽんと頭を撫で、大きく伸びをする。
「もう今日は遅いから、明日にせん?りこさん、明日も仕事やろ?早めに寝らなあかんやろ?」
「そうですね。私、明日も仕事なんです。じゃあ、部屋に荷物持って行きます!」
仕事と言っても、出勤する訳ではないけども。
何となくむず痒い心地がして、バタバタと慌てながら、奥の部屋へと連れて行く。
それだけで、十分満たされた気持ちだった。