赤ずきんは狼と恋に落ちる
――。
ギクシャクと、チクタクと、ぎこちない時間が経っていく。
千景さんが帰って来た後、私は何も話せずに、夕食を作った。
意識しないように、なんて出来るはずがない。
気持ちを伝える前と、伝えた後に変わったのは、千景さんが十分すぎるくらいに甘やかしてくれること。
変わっていないのは……
相変わらずの、私の不器用さだけ。
気を変えてみようと、キッチンに立ってまな板と包丁を見つめてみるも、仕事続きで、料理はほとんど千景さん任せにしてしまっていたので、出来るかどうかが不安。
このネガティブ思考をどうにかしたいものだ。
せめて形だけはと、いつたんすにしまったのか分からない、綺麗に畳んだエプロンを久しぶりに着けてみた。
……形だけなら、大丈夫だ。
「何か野菜でも切ってみようかな……」
冷蔵庫の中を覗き込み、すぐに目に付いたにんじんと玉ねぎを取る。
コトンと両方を置いたと同時に、ドアを開けた千景さんと目が合ってしまった。