赤ずきんは狼と恋に落ちる
「千景さん、出来たので食べませんか?」
見た目も味にも全く自信はない
。
やっぱり、毎日作っている千景さんの料理には敵わない。
これから千景さんに教えてもらえばいいと、開き直ってちゃっかりしている。
見よう見まねでここまで出来上がったのも、頑張った証拠だと、「地味」と一蹴されてしまいそうなおかずを見る。
ご飯に味噌汁、野菜の煮付け。
……地味すぎる。
ここは鉄板の肉じゃがにしておくべきだったと思うものの、じゃがいもを型くずれさせて失敗しそうだったのでやめたのだが。
上手くいこうがいかまいか、結局は同じだったかもしれない。
内心不安でいっぱいなのを隠しつつ、テーブルの上にそっと置く。
無駄な悪あがきとは思いながらも、緑茶を添えてみる。
「冷蔵庫の中、あんまり材料入ってなかったやろ?買っとかなあかんかったなぁ。明日一緒に買いに行こ?」
聞き逃してしまいそうなお誘いに、思わず顔がにやけてしまう。
「なら明日は早く帰ってきますね」
5時までに絶対仕事を終わらせようと決め、笑って返した。
「よし!ならりこの手料理、頂きますか!」
きちんと手を合わせて「頂きます」と言うと、千景さんはまず最初に味噌汁に手を付けた。
「……味の方は大丈夫ですか?」
箸にも手を付けずに、彼の反応だけを待つ。
お椀をテーブルに置くと、感想を言うより先に、困ったように笑い出した。
「そないに怖い顔せんといても。美味しいで。……思っとったよりも」
「私でも、調理実習でやったことぐらいは出来ます!……え?今、美味しいって言いましたよね?!」
料理が出来ないと思われていたことよりも、千景さんの「美味しい」と言った言葉に反応する。
「ん?言ったけど?」
「良かったぁ……」
これは私でも作っていいみたいだ。
その後も、千景さんが何か食べる度に、「美味しいですか?!」と訊きまくり。
その度に答えてくれた千景さんに、「じゃあいつか得意料理を教えてくださいね」とまで、約束を取り付けた。
「ご馳走様」と、丁寧に手を合わせて言ってくれた後に、千景さんはこう言った。
「りこ。言っとくけど、もう逃がさへんからな?」