赤ずきんは狼と恋に落ちる
「りこさん、朝ごはん食べへんの?」
上から聴こえる優しい声に、罪悪感を感じつつも、ぎゅっと固く目を瞑る。
「困ったなあ……。俺、りこさん分食べてしまうで?」
ごめんなさい、後でちゃんと行きますから……!!
さすがに昨日会ったばかりの男性にスッピンで髪がボサボサの姿だけは見せられない!!
布団を頭までかぶり、手櫛で髪を梳くが、どうも上手くいかない。
どうしようどうしようどうしよう……!
パニック状態で布団をぎりっと握り締める。
すると――。
「りこ。朝やで。早よ起きんとな?」
布団越しに、くぐもった柔らかい声が届いた。
つい数秒前の申し訳なさが消えるくらい、ある事に意識を傾ける。
え?
今、「りこ」って……
「りこ」って呼んだ……?
「寝たフリ、下手やなぁ」
ガバッと勢いよく捲られた布団。
「おはよ、りこさん」
結局、顔はスッピン、髪はボサボサのまま、朝を迎えてしまった。
それに、寝たフリがバレているなんて。
どこまで間抜けなんだ、私。
「お、おはようございます……」
形だけの朝の挨拶をするも、恥ずかしくて千景さんの顔を見れない。
「布団かぶっとったから、顔真っ赤やで。朝作ったから、はよおいで」
それだけ言うと、真っ直ぐドアの方へ向かい、パタンと閉める。
名前を呼ばれるなんて、思ってなかった。
不意打ちはずるい。
あんな声で呼ばれたら、
……勘違いしてしまいそうだ。