赤ずきんは狼と恋に落ちる
その言葉に、一瞬浮かれて忘れていたことをありありと思い出す。
「こんだけ待ったんやから、もう『待った』はなしやで」
千景さんが言っている言葉の意味を全部理解出来てしまうところに、恥ずかしさがじわりじわりと襲ってくる。
彼の余裕の表情と声色に、身体がビクリと強張っていく。
「私、食器洗っておきますから、千景さんはゆっくりお風呂にでも……」
これが最後の回避だと決めながら、テーブルの上の食器を片付ける。
「……一緒に入る?」
?!
「えぇ?!いや、そんな……、入れません!!」
危うく食器を割ってしまいそうになるのを必死に耐え、「これはきっと冗談」と落ち着くまで自分に言い聞かせる。
チラッと千景さんの方を見てみると、「やっぱり」とでも言いたげな顔で笑っている。
「残念やなぁ。じゃあまた近いうちに」
それだけ言うと、軽く私の唇に触れてから、ドアを閉めた。
「……っ!!」
言葉にならない言葉と、避けられない現状。
どうにもならないこの感情を抑えるように、
泡立ったスポンジを、ぎゅうっと握った。