赤ずきんは狼と恋に落ちる
自分のものとは思えないような、はしたない声。
往生際の悪い手が、口元を押さえようとするも、千景さんに掴まれていて出来ない。
どうしようもなくなり、目を固く固く瞑る。
私を隠す砦が、スルリと頼りなさげに落ちていき、中途半端に引っ掛かる。
もうとっくの昔に、隠すことを放棄したようなただの布は、いっそのこと取ってしまえばいいのにとさえ思ってしまう。
中途半端に布をぶら下げている私。
千景さんは一度見ると、苦しそうに笑った。
「反則やろ……」
どういう意味で言ったのか、微妙に分かってしまうところに、羞恥心が煽られていく。
「そんな顔せんといて。……本当に、俺の方がもう無理や」
首筋にあった唇が、下へ下へと下りていき、指とは違う感覚がまた襲ってくる。
千景さんの優しくていやらしい手つきと唇に、じっと耐えていた私の身体は、もう限界だった。
「あ、もう……や、ダメ……っ」
ついには高い嬌声を上げ、くたりと千景さんの胸元に倒れ込んでしまった。
思考が回らない頭で、千景さんはこういうことに慣れているのかな、なんて思ってみたりする。
こんな素敵な人なんだから、当たり前かと決めつけてみるも、少しだけ切なさを感じた。
そんな中、降ってくる唇と甘ったるい刺激に、またも私は嬌声を上げてしまう。
自分だけが慣れていなくて、自分だけが満足させられているように思えてきて。
言葉に出来ない申し訳なさや、恥ずかしさが込み上げてくる上に、抗えない快感がプラスされる。
いつの間にか、最後の砦だった下着も脱がされていて、触れる度にいやいやと首を横に振る。
「りこ、こっち見て?」
ふわっと頬を撫でられ、しばらく開けなかった目から涙が零れる。
嬉しそうに目を細めて笑う千景さんを見て、ポロポロと雫が落ちていく。
嬉しくて、今までにないくらい満ち足りていて、
切なくて、愛おしい。
あの夜に出逢って、好きになって、思いが通じて。
こんなに幸せなことはない。
その幸せが、ずっと、ずっと続くことはないかもしれない。
千景さんが、急に消えてしまうかもしれない。
そうと分かっていても、
私は、千景さんのそばに居たい。