赤ずきんは狼と恋に落ちる





美味しそうな焦げ目のついたトーストに、カラフルな野菜炒めと、ツヤツヤとしたまん丸の黄味の目玉焼き。


最後に、椅子に座った私の前に置かれるのは、千景さんが煎れてくれたコーヒー。



「いただきます」


手を合わせて言うと、トーストにサクリと齧りつく。

私がやってもなかなか上手く焼き上がらなかったのに、と半ば不満に思いながらも、トーストをまた一口齧る。



朝からお洒落なものを作ってもらい、食べさせてもらっている。


一体どっちが居候の身なのか、最近分からなくなってくることも多々ある。



まずはトースターの使い方を一から覚え直そうと心に決め、目玉焼きがのったプレートを取ってまた一口。




「美味し……」



ほぅっ、とため息を吐いて、思わず笑みが零れる。

毎朝毎朝、千景さんが作ってくれて本当に有難い。



パクパクと食べている私を他所に、千景さんはコーヒーを片手に、じっとこちらを見ている。




「千景さん?どうかしたんですか?」



さっきから食べてばかりの私とは反対に、千景さんはまだコーヒーにしか口を付けていない。


やっぱり、疲れさせてしまったのかもしれない。



「あの、疲労回復とか頭痛とかの薬持ってるので、今……」

「ああ、平気やから。りこが美味しそうに食べてくれてるから嬉しいなぁーて。りこの食べてるとこ、好きやわ」

「え?私そんなに嬉しそうな顔してますか?!
あ……。でも、私食いしん坊なので、してるんでしょうね。千景さんのご飯、すごく美味しいので。毎朝ありがとうございます」



そう言ってにっこりと笑うと、千景さんも照れたように笑ってくれた。


自分が、自然と笑顔になっていくのが分かる。



こうやって、すんなりと笑ってお礼が言えたのも、私としては成長したものだ。



朝ご飯を一緒に食べたり、作ってくれた彼と笑ったり。

こんな時間が、愛しくてたまらない。




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