赤ずきんは狼と恋に落ちる
急いで朝の身支度。
のんびりと化粧をしている暇も、取り繕う余裕も、今の私には無い。
もう既に見られてしまってるんだから。
パジャマを脱ぎ、私にしては高い買い物だったワンピースを着る。
ワンピースと言っても、少しだけ飾り気がついたただのルームウェアだ。
自分の家なのに、すごくすごく、緊張する。
おかしくないかどうか、一生懸命姿見の前で確認し、小走りでリビングへ向かう。
一呼吸しておこう。
大きくなっていく鼓動を抑えながら、ドアをゆっくり開けると、優雅にコーヒーを片手に持つ千景さんと目が合う。
「りこさん、先に飲ませてもらうな」
そう言って、ふわりと笑う。
ああ、やっぱり、素敵だ。
私みたいな普通の人がコーヒーを飲んでいても、何も様にはならないのに。
千景さんは、何をしても絵になりそう。
「何しとるん?冷めてしまうで」
その声でハッとし、慌てて向かい側の椅子に、腰を掛けた。