赤ずきんは狼と恋に落ちる





仕事に集中しようとすればするほど、周囲の視線がグサグサと刺さってくる。


ただの興味ならまだ良い方だ。

変な噂が流れてしまいそうな気もして、今日何回目かの溜め息を吐くと。




「佐々木!佐々木ぃ!!」



よく通るハスキーボイスで自分が呼ばれたことに気付く。



「あ……!はい!」



少し苛立ちを含んだ声に、ヒヤリとした冷たさを感じつつも、とりあえず威勢の良い返事だけ返した。




「早くこっちに来な」



にこやかに苛立ちながら手招きしている課長の方へ、慌てて飛んで行った。




「すみません……」

「ったく、今日は珍しく朝早くてシャキッとしてるかと思ったら……」

「すみません……。これから気を付けます……」



「申し訳なさ」を顔に貼り付けて、口元だけで曖昧に笑う。




「はいこれ。読んでて」

「分かりました」



USBと、恐らく駅で取ったのであろう表紙が折れた雑誌を渡される。





「今回佐々木が記事と写真よろしく」




短い髪を細い指で上げながら、課長は違う雑誌のページをめくっていく。



見たところ、グルメ雑誌のようだ。


表紙には「口コミで話題!!女子にオススメBEST20!!」の文字が躍っている。


どこかに取材しに行くのかも。


表紙をめくって中をパラパラと見ていると、課長が「あったあった」と呟いて、私の前に見せた。




「今回行くのはここね。エトランゼって所」



< 132 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop