赤ずきんは狼と恋に落ちる
仕事に集中しようとすればするほど、周囲の視線がグサグサと刺さってくる。
ただの興味ならまだ良い方だ。
変な噂が流れてしまいそうな気もして、今日何回目かの溜め息を吐くと。
「佐々木!佐々木ぃ!!」
よく通るハスキーボイスで自分が呼ばれたことに気付く。
「あ……!はい!」
少し苛立ちを含んだ声に、ヒヤリとした冷たさを感じつつも、とりあえず威勢の良い返事だけ返した。
「早くこっちに来な」
にこやかに苛立ちながら手招きしている課長の方へ、慌てて飛んで行った。
「すみません……」
「ったく、今日は珍しく朝早くてシャキッとしてるかと思ったら……」
「すみません……。これから気を付けます……」
「申し訳なさ」を顔に貼り付けて、口元だけで曖昧に笑う。
「はいこれ。読んでて」
「分かりました」
USBと、恐らく駅で取ったのであろう表紙が折れた雑誌を渡される。
「今回佐々木が記事と写真よろしく」
短い髪を細い指で上げながら、課長は違う雑誌のページをめくっていく。
見たところ、グルメ雑誌のようだ。
表紙には「口コミで話題!!女子にオススメBEST20!!」の文字が躍っている。
どこかに取材しに行くのかも。
表紙をめくって中をパラパラと見ていると、課長が「あったあった」と呟いて、私の前に見せた。
「今回行くのはここね。エトランゼって所」