赤ずきんは狼と恋に落ちる
「お待たせしました」
急に千景さんが爽やかな笑みを浮かべて、丁寧にプレートを置いてくれた。
内心「助かった」と思いつつも、さっきの内容を聞かれていたらと思うと背筋が冷える。
「最近これが一番人気なんですよ。男性の方も女性の方も注文してくれるんです」
新しいグラスに人気のリキュールを注ぎながら、一つ一つ説明してくれる。
自分で仕事中だとは何回も思いつつも、その優しい笑顔と柔らかな言葉に一人キュンとしてしまう。
相手が私だから?
なんて勘違いも今だけ許してほしくなる。
一通りインタビューして、内容をメモする。
島上さんの方も、何回か撮ったものを見せ、アドバイスまでしてくれた。
食べようとした時には、すでに千景さんが取り分けていた。
いつものことながら、きちんと気が回っているなと思う。
「いただきます」
パクリと一口食べる。
ああ、やっぱり千景さんの手料理はおいしい!
今度作り方を教えてもらおうかな。
無言でパクパクと食べていると、千景さんがカウンター越しで目の前に座った。
久しぶりからなのか、変に緊張してしまう。
千景さんは目を細めて優しく笑う。
「そんなにおいしそうに食べてくれると、嬉しいですね」
「……っ!あの……すごく、おいしいです……」
フォークを持つ手を強く握り直し、目線を真下に向ける。
本当に、もう無理……!
出来ることなら今すぐどこかに隠れたいけれど、そんなこと絶対に出来ない。
意味ありげな視線を突き立ててくる芳垣さんと、千景さんと親しく話している島上さんと、時折確信犯のような言葉を吐く千景さん。
たった1時間程度居るだけでこんなに疲れると思っていなかった。
ふっと小さく息をつくと、島上さんが唐突に踏み込んだ話を始めた。
「宇佐城さんって本当にモテそうですよね。彼女さんいるでしょ?」