赤ずきんは狼と恋に落ちる




気付いた時にはもう既に遅く。


真っ白だったシャツは、赤ワインをすっかり吸い込んでしまっていた。




「すみませんっ!」



じんわりと滲んでいる赤色。

かかったのがシャツだけで助かった。

でもグラスを受け止めた部分は、紅色に染まっている。



千景さんが持ってきてくれた布巾でせっせと拭いていく。






……何やってるんだろう、私。





緊張と興奮しきって火照った頭と身体を、シャツの染みが冷やしていく。


この動揺ぶりを見せないように考えてたら、案の定、もっと酷いことになってしまった。




ここへ来たのは、取材するためであって、大恥をかきに来たんじゃないんだから。



今日という日が早く過ぎ去ってしまえばいいのに。





自虐的な言葉ばかり頭に浮かべてはそれを積み、「すみません」と言いながら濡れそぼった布巾で丁寧に拭く。




「大丈夫?佐々木さん酔ってる?」





それ、さっきまで私が島上さんに言いたかったセリフ。


ま、こんな失態を犯した私に言われたくないか。





「大丈夫ですよ……。すみません、迷惑かけちゃって」

「俺は気にしてないけど、佐々木さん、それ……」



島上さんは、胸元にびっとりとはりついたシャツに一度視線を持っていって、パッと逸らした。



今になって「どうしようか」と考える始末。


上着はハンガーに掛けているから、それを着てばっちりボタンを留めておけば何とかなるだろう。



「すみません、見苦しい姿見せて。上着着れば見えませんし、大丈夫ですから」



空元気のように笑ってみせると、「佐々木さん」と千景さんに呼ばれた。



「裏に俺のシャツあるので、使って下さい。そのままだと冷えますよ。外、雪降ってますし」



その言葉をどう受け取っていいものか考えているうちに、「どうぞ」と裏へ連れて行かれてしまった。


< 149 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop