赤ずきんは狼と恋に落ちる
気付いた時にはもう既に遅く。
真っ白だったシャツは、赤ワインをすっかり吸い込んでしまっていた。
「すみませんっ!」
じんわりと滲んでいる赤色。
かかったのがシャツだけで助かった。
でもグラスを受け止めた部分は、紅色に染まっている。
千景さんが持ってきてくれた布巾でせっせと拭いていく。
……何やってるんだろう、私。
緊張と興奮しきって火照った頭と身体を、シャツの染みが冷やしていく。
この動揺ぶりを見せないように考えてたら、案の定、もっと酷いことになってしまった。
ここへ来たのは、取材するためであって、大恥をかきに来たんじゃないんだから。
今日という日が早く過ぎ去ってしまえばいいのに。
自虐的な言葉ばかり頭に浮かべてはそれを積み、「すみません」と言いながら濡れそぼった布巾で丁寧に拭く。
「大丈夫?佐々木さん酔ってる?」
それ、さっきまで私が島上さんに言いたかったセリフ。
ま、こんな失態を犯した私に言われたくないか。
「大丈夫ですよ……。すみません、迷惑かけちゃって」
「俺は気にしてないけど、佐々木さん、それ……」
島上さんは、胸元にびっとりとはりついたシャツに一度視線を持っていって、パッと逸らした。
今になって「どうしようか」と考える始末。
上着はハンガーに掛けているから、それを着てばっちりボタンを留めておけば何とかなるだろう。
「すみません、見苦しい姿見せて。上着着れば見えませんし、大丈夫ですから」
空元気のように笑ってみせると、「佐々木さん」と千景さんに呼ばれた。
「裏に俺のシャツあるので、使って下さい。そのままだと冷えますよ。外、雪降ってますし」
その言葉をどう受け取っていいものか考えているうちに、「どうぞ」と裏へ連れて行かれてしまった。