赤ずきんは狼と恋に落ちる
急いで朝ごはんを食べ終え、いそいそと出かける準備をする。
社会人になったからと、調子に乗ってかけた緩めのパーマを丁寧に櫛で梳き、グロスとチークを塗る。
鍵と財布をバッグに入れ、玄関に行って靴を探す。
と。
「りこさん?もう準備出来たん?」
部屋から出てきた千景さんと会った。
さっきまでのジャージと一変して、雑誌のモデルが着ているような服の千景さん。
「ごめんな。俺まだちょっとかかるわ」
困ったようにはにかむと、また部屋へと戻っていく。
何を着ていても、やっぱり絵になる。
私なんかが隣を歩いていたら、絶対に「吊りあってない」とか言われそう。
……。
彼女でも、何でもないのに。
何気にしちゃってるんだろう、私。
妙な虚しさと寂しさを感じながらも、リボンの付いた白のパンプスを履く。
彼女じゃない。
恋人じゃない。
ただの同居人。
千景さんが出て行くときには、私は赤の他人になるのだ。
分かっている。
大丈夫だ。