赤ずきんは狼と恋に落ちる
小さな電球がポツン、ポツンと灯っている細い廊下。
1畳程度の部屋が何カ所かあり、段ボールが積んであったり、スーパーの袋が置かれていた。
一番奥の部屋に入ると、千景さんはロッカーを開けて、真っ白なシャツを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……」
一言お礼を言った後に襲いかかってくる沈黙。
話しかけるのが、とてつもなく気まずい。
「あの、千景さんっ!……黙ってて、すみませんでした」
耐えきれなくなってつい口を突いて出てきた言葉。
自分にやましい気持ちがどこかにあることが、何となく嫌だった。
「謝らなくてええのに。……びっくりした。りこがスーツ着て取材に来るんやから」
そう言うと、パタンとドアを閉めた。
一人残されたなか、シャツのボタンを外していく。
肩にシャツを引っ掛けたまま、ぐるりと部屋を見渡す。
初めて千景さんの仕事場に来たんだ……。
そう思うと、何だか不思議で、シャツを脱いでいる自分が気恥ずかしくなった。
「りこ、着替えた?」
びくりと身体が跳ね上がり、「もうちょっと待って下さい!」と慌てて千景さんのシャツに袖を通す。
言うなら、今かな……。
「私、お店の名前知らなかったんです」