赤ずきんは狼と恋に落ちる
「やっぱ付き合ってたんだ」
「わっ?!芳垣さん!」
ぼんやりとカウンター席を見つめていた真上から、芳垣さんの声が降ってきた。
帰り支度をばっちりし、マフラーをぐるぐる巻いている。
やっぱりこう見ると、まだ高校生と言っても通用するぐらい幼い。
「何?これ言っちゃダメだった?」
「いえ、そんなことはないんですけど……」
変なところで気を遣ってくる人だな。
でもこれが芳垣さんの良いところなのかも。
そう思うと、笑みが零れてきて、芳垣さんがジトッと見てくる。
「やけに嬉しそうじゃん。
……良かったね。店長がこの頃嬉しそうにしてたからもしかしてって思ったら、そうだった」
もこもこした手袋を着けながら、淡々と喋る芳垣さん。
千景さんのことを話してくれるのは、相手が私だからかなと、有難く解釈する。
彼も気に掛けてくれたんだ。
今日は何だかほっこりとした優しさを身にしみて感じる。
島上さんも芳垣さんも、詮索せずにいてくれる優しさを持っている。
それをいつか、私も持てるようにならないと。
「ああ、今日はもう閉めるって。それじゃあお疲れ様」
「あの、色々とありがとうございます!お疲れ様でした!」
早足でスタスタと出てしまった彼に聴こえたのかは分からない。
それでもいい。
いつかまた、出来るだけ近いうちに。
私も二人に感謝の気持ちだけでも伝えられますように。