赤ずきんは狼と恋に落ちる
「同僚の人には言ってなかったんや?」
「はい……」
半分ほどなくなった苺ジュースを見つめながら、ふっと息を吐く。
どんなに私が繕っても、千景さんへの気持ちは誤魔化せない。
あの二人からしてみれば、私だけが千景さんを好きだ好きだと想っているように見えるかもしれない。
自分は気を付けているけれど、顔に出ちゃうんだろうな。
「分かりやすいんでしょうね、私が」
自嘲気味に笑うと、ぽんぽんと頭を撫でてくれる。
「それでええんよ。その方が俺が早く気付けるやろ?」
紳士的な標準語を使う千景さんが居なくなって、代わりに心にじんわりと沁み込むような関西弁を話す、いつもの千景さん。
そんな話し方で、こんなことを言うから、嬉しいのに泣いてなってしまいそうで。
「話したくない訳じゃないんです」
我ながら引き摺りすぎだと思うけれど、前に痛い目に遭ってしまったため、他人に話す気にはなれなかった。
今にして思えば、話す相手を間違えた私も馬鹿だった。
「もうこんな目に遭わないように」と、怯えて、疑って、殻に閉じこもって。
随分嫌な奴だったな。
「気を悪くさせちゃって、ごめんなさい」
辛気臭い顔をしないよう、なるべく明るく笑ってみせると、テーブル越しにぎゅっと抱きしめられる。
そっと背中に腕を回すと、あやすように髪を撫でられた。
「そんなことで気ぃ悪くする訳ないやん。変に詮索しようとして、ごめんな」
耳元で囁かれ、ぞくぞくと震えてしまう。
こんな時に、と不謹慎な自分が恥ずかしくなるけれど、何だかもっと甘えたくなる。
センチメンタル・クリスマス。
単純すぎて涙が出そう。
こんな気持ちも涙も、全部全部、
千景さんに溶かされてしまった。