赤ずきんは狼と恋に落ちる
狼の事情



クリスマスに年末、お正月、仕事始めと慌ただしかった1月の中旬。


窓の外の日差しは暖かそうに見えるけれど、まだまだ冬の寒さの方が勝っている。



出不精の私は、暖房のスイッチをつけて、ソファーに深く腰掛けると、テーブルの上にある雑誌を取って、あるページを開いた。



見開きの記事には、先月私が書いたもの。

そこらじゅうのでかでかとあるキャッチフレーズの下には、島上さんが撮ってくれた写真。



勿論、千景さんの写真もばっちりある。



素人丸出しの取材に嫌な顔一つせず、普段通りの柔和な笑顔を浮かべて立っている写真の中の千景さん。




この記事を課長に見せた瞬間、「私が行けば良かった!」と散々言われた。


人伝いに聞いたところによると、内容の良し悪しではなく、千景さんの写真を見たからとのことだった。




記事のことで何か言われるんじゃないかとひやひやしていたが、「これで良し」とその翌日に言ってもらえ、安心した。




そして発行。


案の定、売れ行きは好調。

1週間経った今でも、まだ追加の発行の電話が来る。




自分の記事を目に通す人が増えるのは嬉しい。


その反面、千景さんが手に届かない所まで離れていきそうで、もの寂しい。




今後の仕事に役立てるため記事を読む、というのは建前。


本当は、千景さんがまだ傍に居るということを確認したいだけ。




これはただの嫉妬として片付けてしまおう。


< 158 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop