赤ずきんは狼と恋に落ちる
狼の事情
クリスマスに年末、お正月、仕事始めと慌ただしかった1月の中旬。
窓の外の日差しは暖かそうに見えるけれど、まだまだ冬の寒さの方が勝っている。
出不精の私は、暖房のスイッチをつけて、ソファーに深く腰掛けると、テーブルの上にある雑誌を取って、あるページを開いた。
見開きの記事には、先月私が書いたもの。
そこらじゅうのでかでかとあるキャッチフレーズの下には、島上さんが撮ってくれた写真。
勿論、千景さんの写真もばっちりある。
素人丸出しの取材に嫌な顔一つせず、普段通りの柔和な笑顔を浮かべて立っている写真の中の千景さん。
この記事を課長に見せた瞬間、「私が行けば良かった!」と散々言われた。
人伝いに聞いたところによると、内容の良し悪しではなく、千景さんの写真を見たからとのことだった。
記事のことで何か言われるんじゃないかとひやひやしていたが、「これで良し」とその翌日に言ってもらえ、安心した。
そして発行。
案の定、売れ行きは好調。
1週間経った今でも、まだ追加の発行の電話が来る。
自分の記事を目に通す人が増えるのは嬉しい。
その反面、千景さんが手に届かない所まで離れていきそうで、もの寂しい。
今後の仕事に役立てるため記事を読む、というのは建前。
本当は、千景さんがまだ傍に居るということを確認したいだけ。
これはただの嫉妬として片付けてしまおう。