赤ずきんは狼と恋に落ちる
唇が離れていくのを感じ、ゆっくりと瞼を開くと、意地悪く笑う千景さんと目が合った。
写真の笑顔とは程遠くて、何だか少しだけ悔しい。
「こういう時の方がよっぽど良い笑顔やろ?自然だし」
しれっと言いのける千景さんに、敵わないとは思いつつも、わざとらしく拗ねてみせる。
「こういう時の方は意地悪いです」
顔を背けようと首を右に曲げる。
と、同時に挟まれていた頬がパッと離れた。
「俺が意地悪いのなんて、りこはもうとっくの昔に知っとるはずやろ?」
スッと離れていく千景さんに、ついもの寂しそうな視線を送ってしまう。
私がこんな顔になるって知っているくせに。
「本当、千景さん意地悪いですね……」
棘を隠した言葉とは裏腹に、そっと伸ばした手が、千景さんの手を掴んでいた。
「珍しいなぁ」
「何がですか?」
「こんな風に手ぇ掴んでくれるの」
どこか嬉しげにそう言う千景さん。
離しかけようとした私の手を、逃がさないとばかりに強く握ってくれる。
その温かさに、きゅんと胸の痛みを感じた矢先に、無機質な着信音が響いた。