赤ずきんは狼と恋に落ちる
「千景さんがそんな顔しているのに、気にしない方がおかしいです」
ココアに映る私は、ひどく悲しそうな顔をしていた。
「りこ……?」
千景さんが手を伸ばした時に、コロンとあのストラップがまた落ちた。
まるで、不安を助長させるように、当て擦りのように見えて仕方がなかった。
「それ、誰のですか?」
声帯が絞られたみたいに、か細い声で尋ねてみる。
自分でも、なんてわざとらしいんだろうと思った。
「りこの知らない人の。ほんとに、関係ないんやし、気にせんでええんよ?」
その優しい声が、恨めしかった。
「関係ない、ですよね……。私、千景さんのこと、何にも知らないから……」
一度放った言葉は、絶対に消えてくれない。
分かっていたはずだけど、もう、どうにも止めようがなかった。
「どこまで踏み込んでいいのか、分からないんです。
余計な詮索ばっかりしちゃって……。
でも、あんまりにも私、千景さんのこと知らないから……。
何だか、千景さんが目の前から消えちゃいそうで……」
何を言いたいのか、さっぱり分からない。
私だけ悩んでいる、という被害妄想を押し付けているみたい。
疲れているのに、こんな話を聞かされる千景さんの身にもなってみてよ。
ああ、本当にもう、重たい女だ。
「……ごめんなさい。変なこと言って」
「いいや……」
温くなったココアを一口だけ飲み、ゆっくり立ち上がる。
「今の、忘れて下さいね?」
ここ最近で一番穏やかな笑みを浮かべてみせ、早足で部屋に入る。
ドアを閉め、その場にしゃがみ込む。
……言っちゃった。
言いようのない後悔が棘のように刺さり、今になって涙が滲んだ。