赤ずきんは狼と恋に落ちる
止めどない涙を枕に押し付け眠ったその翌日。
空元気に振舞ってしまえばいい、と開き直ってリビングへ行くと、一人分の朝食がちょこんと置かれていた。
隣には、小さな紙に「今日は帰れません」の文字が並んでいた。
昨日のあの表情に、今日のこの置手紙。
心の奥深くに沁み込んでいくような不安を感じつつも、私にはどうすることも出来ない。
黙って千景さんの帰りを待とう、なんて物分かりの良いふりをして、冷めた朝食を温めた。
不安を掻き消そうとすればするほど、仕事が捗っていく。
沈んでいく気持ちとは反比例しているみたい。
自嘲気味にそう思いながら、カタカタとキーボードを打ち込んでいく。
「佐々木、何か最近すごいね」
昼休みになっていたのを気付かずに黙々と仕事をしていたからか、渡辺さんが肩を叩いた。
「ランチ。行かない?」
「あっ、うん。行く行く」
鞄から財布を出し、渡辺さんについていくと、また誰かに肩を叩かれた。
「佐々木さんたち、今から?俺もいい?」
「島上も?別にいいけど」
渡辺さんがさっとそう答え、「早く行かないと!」と私の手を引っ張った。