赤ずきんは狼と恋に落ちる
社内食堂はどこも空いておらず、結局近場のカフェで済ませることになった。
「島上、時間大丈夫なの?」
「ああ、3人分帰ってくる時間を遅めに書いておいたから平気。あと1時間半は大丈夫」
「ちょっと……、そんなに盛って書いたの?」
笑いながら非難している渡辺さんと、しれっとそれをかわす島上さんに挟まれ、どこか疎外感を感じながら、ちまちまとメープルラテを飲む。
「佐々木、今日はやけに大人しいね。何かあったでしょ?」
「やっぱ?佐々木さんいつも以上に仕事に没頭してたから、そうなんじゃないかなーって俺も思ってた」
相変わらず二人ともよく他人のことを見ているな。
皮肉っぽく聴こえるけど、これは褒め言葉に近い。
「あー……。ちょっと色々あって。でも、大丈夫だよ」
全然大丈夫じゃないけど、こう答えていないと。
特に島上さんの前では。
メープルラテの甘さが、余計に喉を渇かせる。
嘘が下手だからかな。
「そっか……。佐々木が大丈夫って言うなら何も訊かない。あ、でも相談事ならいつでもいいよ!ね?」
「ありがとう」
申し訳なさを感じながら、黙ってキッシュを食べる。
隣の島上さんの視線が気になるけど、今は無視。
恐らく彼は私と千景さんとの問題と察していると思う。
悟られないように平然としているふりをしても、上手くいかないものだ。
「浮気じゃなかったらいいね」
島上さんは、さっきのフレンドリーな声色とは一転、冷たく低い声でぼそっと零した。
ゾクッと背筋が冷え、島上さんの顔を見ると、ふてぶてしい目線で店内の奥を見つめている。
思わず視線を辿る。
その視線の先には、千景さんと女の人。
見たくなかった。
なんて思うのも、もう遅くて。
泣きだしそうになる目元をぐっと堪え、ただただ、拳を固く握りしめた。