赤ずきんは狼と恋に落ちる
喉が渇いてたまらない。
呼吸するのが、辛い。
次に返す言葉を探しつつ、こうまでする自分の必死さに呆れた。
顔を上げることが出来ず、タイル張りの床を見つめると、乾いた笑い声が降ってきた。
「あー……。ほんと可笑しい。佐々木さんも疑ってるんでしょ?それとも、まだ気付いていないふりするの?」
図星であるからこそ、島上さんの言葉がグサリと突き刺さる。
気付かないふり以外、私に出来ることは何もない。
昨日だって、少し訊いてみて、怖くなって、自分から放り出した。
事実を知る勇気がないくせに、知りたがる。
本当に、自分でもどうしようもなく面倒な女だ。
「別れればいいのに」
一気に目頭が熱くなる。
そんなこと、島上さんから言われたくない。
そう言いたいのに、出てきたのは文句ではなく、涙だった。
「え?ちょっ……、佐々木さん?!」
振り向いた島上さんが、あたふたとしている。
困らせてやろうなんて思っていないけれど、何となく良い気味。
そんなことを思う余裕はあるのに、溢れてくる涙を止めれず、ついには喉の奥からしゃくり声まで出してしまった。
こんなはずじゃなかったのに。
聞き分けの良い「彼女」でいて、浮気を疑ったりしないで。
嫌だ、こんな私。
また出てきそうになった涙が、急にピタリと止む。
触り心地の良いスーツの肩口に、目頭が擦れた。
「ごめん、俺言い過ぎた……。ごめんね……」
子供をあやすように、背中を叩きながら、島上さんがぼつりと零した。