赤ずきんは狼と恋に落ちる
手を置いた部分が、とても温かく感じる。
そこが、一瞬だけぴくりと身体を震わせると、島上さんの腕が肩へと伸びた。
「島上さん、もう大丈夫です」
伸びる一歩手前に、ガバリと頭を上げた。
「えっ?」
空を切った腕は、数秒浮いたままで、やがてゆるゆると下へ落ちた。
「迷惑かけてすみませんでした。あと、ありがとうございました」
あのまま抱きついていると、自制が利かなくなりそう。
島上さんの優しさに、どっぷりと浸ってしまうのが、怖かった。
甘い自分が、嫌いで、許せなくて。
理性という名のブレーキをギリギリで掛けた。
「……思わせぶりな態度は良くないよ、佐々木さん。
あのままどっかに連れて行こうかと思ってたのに」
「本当にごめんなさい。つい甘えたくなって……」
しどろもどろに謝ると、わざとらしく不機嫌な顔で笑う島上さんが、また溜め息を吐いた。
「もういい。佐々木さん、早く帰りな。じゃあお疲れ」
くるりと踵を返し、来た道を戻っていく。
その背中にまた謝ると、私も反対の道を駆け出した。