赤ずきんは狼と恋に落ちる
玄関に入ると、あるはずのない靴が目に入った。
どうして?
今日は帰って来ないんじゃなかったの?
朝に見たメモがふっとよぎり、眉間にしわを寄せながら一歩ずつ足を踏み出す。
リビングのドアを開けると、ぐったりとソファーにもたれている千景さんがいた。
「千景、さん……?」
名前を呼ぶと、千景さんは、顔だけこちらに向けて目を細めた。
「おかえり、りこ」
「あの、今日は帰って来れなかったんじゃ……」
「今日は二人だけで話をしたいからって言われたんや」
二人……?
誰のことだろう。
少し首を傾げて千景さんの方を見ると、「知らんのも当然やな」と零した。
「本当はな、りこに話さんでさっさと解決しよって思っとったんやけど、……無理やった」
そう言って、悲しそうに笑う。
「やましいことやないし、今から全部話すわ」
ゆっくりと身体を起こし、隣をぽんぽんと叩く。
こくんと頷き、音を立てないようにそっと座ると、千景さんが話し始めた。