赤ずきんは狼と恋に落ちる
「最近ずっと電話したり会ったりしとったのは、兄ちゃんの奥さんの雪乃さん」
「お兄さん?」
「そ。今入院しとる。過労で倒れたんやって」
千景さんのお兄さんは2年ほど前に、お父さんから継いだ会社の社長に就任。
昔から頭が良かったお兄さんは、大学卒業後、すぐにその会社へ就職し、とんとん拍子で専務にまでなったそう。
「あの人、ずっと働き詰めで。『俺に出来ることあったら言うて』って言ったのに、『ありがとう』しか言わんくて」
声から伝わるやるせなさが、痛々しく響く。
ただ、話を聞いているだけしか出来ない自分が、悔しかった。
「俺も大学出てから当たり前のようにその会社に入れられて、ぽんと課長にならないかとか言われて。何も分からんから、断ったんやけど、そっからがひどくてな」
親の七光りと言われ、「兄貴と同じだ」と軽蔑され。
自分だけならまだしも、次はお兄さんへと飛び火。
「七光り」と言われないよう、必死に働いた。
「結局、1年半くらいで会社辞めた。頑張れなかった」
空を見つめる千景さんに、何て言えばいいのか、分からなかった。