赤ずきんは狼と恋に落ちる
「どっかで兄ちゃんのこと羨ましかったんやろうな。小さい時からずっと期待されてて。本人は辛そうやったけど、俺はただただ羨ましかった」
心に引っ掛かったものが消えたみたいに、ぼろぼろと吐露していく千景さん。
「あんまりにも根詰めて働くもんやから、親父に『休ませてあげろ』って言ったんや。でも、聞き流されてもうた」
会社に勤めていた1年半、お兄さんの仕事もこっそり手伝い、千景さん自身もがむしゃらに働いた。
もしかしたら、頑張りを見てくれるかもと淡い期待を抱いて。
その淡い期待は、一瞬で泡になって消えた。
「頑張って成し遂げたプロジェクトも、評価なんてされんで、『父親の力』って言われてな。少しでも兄ちゃんが楽になればいいんやけどなって思って頑張っとったのに、こんな言われて。情けないわ悔しいわで……。
本当、きつかったわ……」
これが原因で会社に辞表を出し、旅行という名の放蕩をしていた頃、何かの縁で知り合ったエトランゼの前の店長さんに雇ってもらった。
その半年後に店長さんが病気で倒れ、お店を継ぐことに。
「で、現在に至るって訳や」
「はぁ……」
あまりにも深刻すぎて、間の抜けた返答しか出来ない。
私と会う前に、そんな辛い経験をしたんだ。
膝の上で拳を握ると、ふわりと手を置かれた。
「りこがそんな顔せんでええのに」
「でも……」
私が悲しんだって、千景さんの心が軽くなるはずない。
私に出来ることなんて、何もない。
だから、千景さんの優しさが時々、すごく辛い。
「情けないなぁ、俺」
千景さんが自嘲気味に笑うから、耐えきれなくなった。
「そんなこと、ないです」
隣に座る千景さんを、無理矢理引っ張って、背中に腕を回す。
いつもの大きな背中が、小さく感じた。