赤ずきんは狼と恋に落ちる
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「りこ、一晩中抱いて眠ってもええ?」
「はっ?!」
背中に回していた腕を解くと、予想していない言葉が飛び出した。
「何もせんから。今夜だけ。……嫌?」
一瞬浮かんだ邪な妄想を掻き消し、少しだけ距離をとって首を横に振った。
「嫌じゃ、ないです……」
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その夜は、今までにないほど静かで、落ち着いた夜だった。
最初は少しだけ身構えていたけれど、千景さんは本当に何もしないで、ただ二人でぴったりくっついていた。
隣でゆるやかに肩を上げ下げしているところを見ると、千景さんはもう眠っているようだ。
寝顔を盗み見ると、何だかとても幼い感じがして、苦しい愛おしさが込み上げてくる。
離れたくない。
ずっと、ずっと、傍に居たい。
でもそれは、叶わないような気がする。
「いつ壊れてもおかしくないほど、脆い関係」
そう何度も言い聞かせてきたつもり。
分かっているのに、それを否定したい気持ちが大きくなっていく。
「いなくならないで……」
千景さんと居られる時間が、もう長くはないことを、何となく予感した。
いつか、千景さんは私の前から消えてしまう。
消しても消しても残る不安を閉じ込めるように、頬に触れるだけのキスを一つし、隙間がないほどくっついて眠った。