赤ずきんは狼と恋に落ちる
短い夜
小春日和の土曜日。
おしゃれな雰囲気の花屋で、ピンクとオレンジのガーベラを包んでもらうと、その足で都立病院へと向かった。
学生時代にお世話になった叔母さんが倒れた。
実家に居る母から電話があり、「仕事が忙しくてもお見舞いに行ってあげて」と言われ、急いで昨日のうちに原稿を出した。
「大丈夫かな……」
思い病気じゃないことを祈りながら、両手に抱えたガーベラを一度抱え直し、バスに乗った。
「すみません、お嬢さん」
「はい?」
席へ座る前に誰かに呼び止められ、ちらっと後ろを見る。
私よりも少しだけ背の高いおじいさん。
左手に杖を持っているけれど、姿勢が良く上品な感じだ。
「このバスで総合病院近くのバス停はどこか分かりますか?」
「はい。泉水ですから5つ目のバス停ですよ」
発車する前におじいさんを座らせ、私もその後ろの席に座った。
「ありがとう」
にこりとこちらに穏やかな笑みを向けてくれ、何だか緊張してしまう。
「どういたしまして」
慌ててそう言い、窓の外へと視線を逸らした。
「お嬢さんもお見舞いですか?」
「はい。叔母が倒れたと聞いてお見舞いに」
「そうか。大変だね。早く良くなるといいな」
「ありがとうございます」
バス内で少しだけおじいさんと話した。
話によると、自分の治療ついでに、おじいさんの息子さんのお見舞いへ行くそうだ。
「息子さん、きっと早く良くなりますよ。お父さんがお見舞いに来てくれるんですから」
「……そうだと良いがね」
おじいさんは一瞬だけ悲しそうに眉を寄せると、また私ににこりと笑った。