赤ずきんは狼と恋に落ちる
小さな音を立て、エレベーターが開く。
どこへ行くのかは知らないけど、千景さんが歩く方へとついて行く。
「りこさん、俺は1回店に戻ってみるんやけど、どうする?ついてくる?」
「なら、私も行きます」
こくんと頷いて、そのまま千景さんの後に続いた。
***
昨日行ったばかりの千景さんのバー。
午前中は夜とは違って、独特な雰囲気だ。
「りこさんはここで待っとって」
店内のカウンター席に座らせてもらい、千景さんは奥へと入った。
昨日と同じ席。
一晩経った今でも、昨日の出来事ははっきりと覚えている。
昨日までは、こんな事になるなんて思ってもいなかったのになあ。
そんなことを、ぼんやりとボトルを見ながら考えていた。
……だから、気付かなかった。
「あれ、まだ午前中なのにお客さん?」
「えっ?!」
びっくりして、ドアの方を見る。
茶髪にピアス、ヘッドフォン。
店内が薄暗いから、顔はどうなのか分からない。
声は、男の人のようだった。
「えー、まだ何にも準備してないんですよね……。困ったなぁ……。それより、アンタどうやって入ったの?」
カツカツとブーツの音を立てながら、こちらに近づいてくる。
小さな灯りの下、やっと顔が見えた。
童顔で、私よりも年下っぽい。
「ねぇ、聞いてるの?どうやってここに入ってきたんですかって訊いてるんだけど」
相手が苛々しているのが、声で分かる。
「私、ちか……っ、宇佐城さんについて来て……」
「宇佐城?ああ、店長のことか……」
髪をかき上げながら、ジロリと私を横目で見る。
「アンタ、店長の恋人?」
「違います!全然、そういう関係じゃないです!」
「じゃあ、店長の何?」
何?と訊かれても……。
「赤の他人です」としか答えられない。
それとも「同居人です」と答えるべきか。
私は、千景さんの何なんだろう。
「ああ、分かった。元カノだ」
「違います……」
それに、私は何でこの人と喋ってるんだろう。