赤ずきんは狼と恋に落ちる
叔母さんのお見舞いへ行った日から1週間が経った。
電話をかけてみると、あと5日は安静にと言われ、「もう少しで退院できる」と嬉しそうな声が受話器から伝わった。
退院する前にまた顔を見せてほしいと頼まれ、カレンダーに土曜日の日付を丸で囲んだ。
またあの女の人を見かけるのかな。
もう顔がぼんやりとしか思い浮かばないけれど、何となく気になっていた。
女の人と、この前話したおじいさん。
他人のことをあれこれ詮索するのは良くないと、一旦頭から二人を消し、夕食を温めた。
「いただきます」
自分で作った肉じゃがと、千景さんが朝作ってくれたお味噌汁の残り。
一人で食べるのには慣れているはずなのに、今夜は何だか味気なかった。
どうしてだか分からずに、煮込んだニンジンを口に入れた時、玄関の鍵が開く音がした。
「ただいま」
いつもより気だるげに、そして乱暴にドアを閉めた千景さんに、びくりと身体を強張らせた。
「あ、おかえりなさい……」
千景さんは私の声を聴かないように、ソファーにドッと身体を投げ出すと、はぁ、と溜め息を吐いた。
声をかけるべきか否か。
口をつぐんだまま箸を置き、「千景さん、」と名前だけ呼んでみた。