赤ずきんは狼と恋に落ちる



叔母さんのお見舞いへ行った日から1週間が経った。



電話をかけてみると、あと5日は安静にと言われ、「もう少しで退院できる」と嬉しそうな声が受話器から伝わった。



退院する前にまた顔を見せてほしいと頼まれ、カレンダーに土曜日の日付を丸で囲んだ。




またあの女の人を見かけるのかな。




もう顔がぼんやりとしか思い浮かばないけれど、何となく気になっていた。



女の人と、この前話したおじいさん。




他人のことをあれこれ詮索するのは良くないと、一旦頭から二人を消し、夕食を温めた。







「いただきます」



自分で作った肉じゃがと、千景さんが朝作ってくれたお味噌汁の残り。


一人で食べるのには慣れているはずなのに、今夜は何だか味気なかった。




どうしてだか分からずに、煮込んだニンジンを口に入れた時、玄関の鍵が開く音がした。





「ただいま」




いつもより気だるげに、そして乱暴にドアを閉めた千景さんに、びくりと身体を強張らせた。





「あ、おかえりなさい……」




千景さんは私の声を聴かないように、ソファーにドッと身体を投げ出すと、はぁ、と溜め息を吐いた。




声をかけるべきか否か。




口をつぐんだまま箸を置き、「千景さん、」と名前だけ呼んでみた。


< 180 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop