赤ずきんは狼と恋に落ちる
「なぁに、りこ」
ゴロンと横たわったまま返す声は、元気がなかった。
「あの、夜ごはん、食べますか……?」
びくびくしているのが分かったのか、千景さんは私の方へ身体を向けると、ちょいちょいと手招きした。
黙ってソファーに寄ると、腰のあたりをガシッと掴まれる。
「わっ、千景さん?!」
急だったから、バランスが取れず、ソファーにそのまま倒れ込んでしまう。
千景さんの顔にぶつからないようにと、右手を背もたれに掛け、全体重をそれで支える。
見下ろしてみると、千景さんは苦しそうに眉根を寄せていた。
「りこ、大丈夫やからこっちおいで」
さっきとは違う、優しい声。
でもやっぱり、いつものような温かみが消えているような気がした。
ゆっくりと態勢を整え、千景さんが苦しくないような位置に身体を預けた。
背中に回る、千景さんの腕。
締め付けられるように抱かれ、少しだけ痛かった。
「りこ……」
痛みを中和するような、甘い声。
それは、何かを懇願するように、切なく消えていった。
千景さんが吐露した夜以来、彼は前よりも甘えるようになった。
そう思っているのは、私だけかもしれない。
話をしてくれた時に見せたあの表情が、幼い頃から今までに至るまでの千景さんの苦悩を物語っていた。
私に手を差し伸べ、助けてくれた千景さん。
悲しそうに私を抱きしめている、今の千景さん。
どっちも千景さんであることに、変わりはない。
私は両方とも好き。
「大好きです」
スッと消え行った私の言葉が届いたのか、千景さんは腕を緩ませ、そっとキスをした。
ただ押し付けるだけのキスから、言葉を飲み込んでしまうほどの荒々しいキスへ。
エプロンの紐が解かれる感覚を最後に、そのまま没頭してしまった。