赤ずきんは狼と恋に落ちる
空が淡いオレンジ色になった頃、私は家に着いた。
鍵を開ける手が震え、胸が苦しくなる。
胃がむかむかする。
吐いてしまいそう。
一度落ち着くために、そっと息を吐き、一気に鍵を開けた。
二つ揃えられた靴。
どくどくと心臓が脈打ち、口の中が渇いていく。
一歩一歩リビングへ近付くにつれ、脂汗が浮いていった。
たった数秒でも、怖いほど長く感じる。
目を瞑ってリビングを開けると、ソファーの上で横になっている千景さんが見えた。
眠っているのかな……?
音を立てないよう、そうっとドアを閉め、ゆっくりとソファーに歩み寄る。
規則正しい寝息を立てている。
あんな話をした後だから、疲れちゃうのも当たり前だ。
テーブルの上に、小さな茶封筒と手紙が無造作に置かれている。
ちらっと見えたのが、「海外展開」の文字で、また辛くなった。
起こしちゃ悪いとは思いつつも、ここから動きたくなかった。
離れたくない。
もっともっと傍に居たい。
もっともっと触れたい。
「千景、さん………」
声が掠れて、消えた時――。
とうとう抑えきれなくなって、
自分から、唇にキスをした。