赤ずきんは狼と恋に落ちる



髪を切って出社すると、真っ先に声をかけてきたのが島上さんだった。




「……失恋?」

「はい」




その一言が、また千景さんが居ないと再確認したようで、寂しかった。





「俺、まだチャンスがあると思っててもいいの?」

「あー……。今はちょっと……。これでも傷心中なので」

「知ってる。佐々木さんが落ち込んでるのも、俺にはとっくの昔からチャンスがないんだってことも。
……誰かに慰めてもらいたかったら、俺のとこにおいで」




最後に意地の悪い笑顔でそう言った。





それが、島上さんとの最後の会話だった。


彼は春の人事異動で、大阪に行ってしまった。




***



季節が巡り、あっという間に4月になった。


その早さに、人との別れなんて案外あっけないものなんだなと、分かりきったようなことを思った。





春らしい暖かな空気に、淡い桃色の花びら。


千景さんと四季を過ごしたかったと、また想い出してしまった。


ふと考えてみたら、千景さんとは秋、冬しか過ごしていない。




あんなに幸せだった時間は、そんなに短かったのかと、今更ながら思い知った。


1年付き合った元彼の時よりも短いなんて。


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