赤ずきんは狼と恋に落ちる



今まで千景さんが働いていたお店に行くのを避けていたけれど、今日は何となく行ってみようという気になった。




久しぶりに定時に出て、ふらりと立ち寄った。



入口には、新しく出来た看板があった。

カラフルなチョークで描かれているそれは、どこかアットホームな感じだった。




千景さんの居ないお店。

ドアをそっと開けると、以前と変わらない雰囲気が広がっていた。


ただそこに、千景さんが居ないだけ。

あとは、何も変わっていなかった。




新しく入ったバイトさんが、テーブルまで案内し、メニューを開いてくれた。

今までこんなのはなかったのに。


店長さんが変わると、やっぱりお店自体も変わるのかな、なんて思いながら、バイトさんが勧めたメニューで頷いた。




ぼんやりと店内を見回す。


女性客が多いのは相変わらず。

そういえば、記事を読んで来てくれた人が増えたって、言ってくれたっけ。




視界がじわりと滲む。

ダメダメ、こんな所で泣くなんて。



上を向いて、何でもないといった様子で首を振ると、パチッと誰かと目が合った。





「あ、」




芳垣さんだ。


< 193 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop