赤ずきんは狼と恋に落ちる
今まで千景さんが働いていたお店に行くのを避けていたけれど、今日は何となく行ってみようという気になった。
久しぶりに定時に出て、ふらりと立ち寄った。
入口には、新しく出来た看板があった。
カラフルなチョークで描かれているそれは、どこかアットホームな感じだった。
千景さんの居ないお店。
ドアをそっと開けると、以前と変わらない雰囲気が広がっていた。
ただそこに、千景さんが居ないだけ。
あとは、何も変わっていなかった。
新しく入ったバイトさんが、テーブルまで案内し、メニューを開いてくれた。
今までこんなのはなかったのに。
店長さんが変わると、やっぱりお店自体も変わるのかな、なんて思いながら、バイトさんが勧めたメニューで頷いた。
ぼんやりと店内を見回す。
女性客が多いのは相変わらず。
そういえば、記事を読んで来てくれた人が増えたって、言ってくれたっけ。
視界がじわりと滲む。
ダメダメ、こんな所で泣くなんて。
上を向いて、何でもないといった様子で首を振ると、パチッと誰かと目が合った。
「あ、」
芳垣さんだ。