赤ずきんは狼と恋に落ちる
「久しぶり」
「お久しぶりです」
芳垣さんは、無遠慮にこちらをじろじろと見ると、ふっと息を吐いた。
「もう来ないかと思ってた。
店長、辞めちゃったから」
「……やっと来れたんです」
「そっか……」
一時の間の後、先ほどのバイトさんが芳垣さんを呼んで、その場を離れた。
彼のことを「店長」と呼んでいたから、千景さんの後を継いだのは、芳垣さんなんだろう。
「ねぇ、この後どうせ暇でしょ?」
「ええ、まぁ……」
言われ方に釈然としないなと思いつつも、二つ返事で答えた。
「ちょっと残っててよ」
「えっ、何か用事でも」
「いいから」
ぶっきらぼうにそう言うと、カウンターの奥へと消えてしまった。
彼も変わってないな。
何をするという訳でもなく、私は待っている間、じっとカウンター席の方を見つめていた。