赤ずきんは狼と恋に落ちる



「久しぶり」

「お久しぶりです」




芳垣さんは、無遠慮にこちらをじろじろと見ると、ふっと息を吐いた。




「もう来ないかと思ってた。
店長、辞めちゃったから」

「……やっと来れたんです」

「そっか……」




一時の間の後、先ほどのバイトさんが芳垣さんを呼んで、その場を離れた。


彼のことを「店長」と呼んでいたから、千景さんの後を継いだのは、芳垣さんなんだろう。




「ねぇ、この後どうせ暇でしょ?」

「ええ、まぁ……」




言われ方に釈然としないなと思いつつも、二つ返事で答えた。




「ちょっと残っててよ」

「えっ、何か用事でも」

「いいから」




ぶっきらぼうにそう言うと、カウンターの奥へと消えてしまった。




彼も変わってないな。



何をするという訳でもなく、私は待っている間、じっとカウンター席の方を見つめていた。


< 194 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop