赤ずきんは狼と恋に落ちる
「お待たせ」
時計は午前0時10分前。
あれから2時間半は待たされていた。
その間も度々バイトさんがコーヒーやら紅茶やらを持ってきてくれた。
「お会計は頼んだ分でいいって言ってましたよ。
ごゆっくり」
気遣うように笑顔を向けられ、何となく居心地の悪さを感じてしまった。
「あの、アイスとかコーヒーとか、ありがとうございます。ご馳走様でした」
「ああ、いや、傷心気味のアンタにはちょっとぐらい優しくしておいた方がいいかなって思っただけ」
クスッと鼻で笑われ、久しぶりにグサリときた。
……でも、これぐらい言ってくれた方がありがたいかも。
割れ物を触るように接してもらう方が、みじめな気持ちになる。
「髪切ったんだ?」
「はい。これでもちょっと伸びたんですけどね」
「いいじゃん」
「ありがとうございます」
当たり障りのない会話を挟むところ、何か話しにくいことなのかな。
じりじりとした緊張感を和らげるように、お冷を一口飲んだ。
「あのさ、見てほしいものがあるんだけど」
そう言って、奥の部屋へスタスタと行き、数冊の何かを持って戻ってきた。