赤ずきんは狼と恋に落ちる
「はい、読んで」
「えっ?!」
バサバサとカウンター席に並べられたのは、4冊の絵本だった。
「絵本……?」
「いいから」
「見てほしいものがある」と言われて、てっきり手紙か何かかと思っていた。
ドラマみたいに。
……そんなことある訳ないか。
結構自意識過剰になっていたかも。
自分に失笑しながら、そのなかの1冊の本を手に取った。
「赤ずきん」の絵本。
読んでいくと、これは子供向けの絵本ではないことが分かった。
「赤ずきんと狼がお互い想い合っていたら」
という「もしも」のお話。
赤ずきんのことが好きなのに、結局彼女を食べてしまって、
狩人に助け出された二人と、お腹に石を詰められて、井戸の中、一人で溺れ死んでいく狼。
狼の後悔と、「何で自分は狼なんだろう」「何であの子とは違うんだろう」という切ない想い。
赤ずきんもまた、狼に罪悪感と言いようのない気持ちでいっぱいになる。
お花畑を教えてくれたり、歩きやすい道を教えてくれたりと、狼の優しいところを見たからこそ。
お互いの「もう会えない」の言葉に、苦しくなってしまった。
数年後、少し大人になった赤ずきんが森を歩いている。
薄暗くて、帰り道が分からなくなってしまった。
心細さでいっぱいの赤ずきんに、一人の青年が声をかける。
手を繋ぎ、道を教えてくれる青年に、どこか懐かしい感じがする赤ずきん。
森を出ると、青年はすっと手を離し笑う。
彼がいなくなった後、何故だか分からないけれど、赤ずきんは涙を零した。