赤ずきんは狼と恋に落ちる
「別に我慢しなくていいよ」
「……あ、」
「もう客も来ないから。好きなだけ泣いてれば」
芳垣さんはそっと離れて、何かを作り始めた。
ミキサーの大きな音に隠れて、小さく嗚咽を漏らす。
これでも、一人で泣くのを堪えていた。
泣いた後、ポツンと部屋にいることが、とてつもなく虚しくなるから。
誰かに慰めてもらいたい訳じゃない。
けれど、やっぱり人が居ると安心して、心が緩んでしまう。
泣くのはみっともない、もっと惨めになるだけ。
そう思っていたはずなのに。
幾分か、心が楽になった。
これが甘えだろうが、隙だろうが、もう何でもいい。
気持ちが軽くなるんだから。
「はい、どうぞ」
こつんと手の甲に冷たい感触があった。
「アンタ、これ好きだったんでしょ?店長から聞いたことがある」
淡い赤色の液体。
久しぶりに見た、あの色。
ああ、もう。
この人も本当に、本当に優しい。
「いただきます」
だみ声で呟き、ストローに口を付けた。
変わらない甘さ。
まるであの夜みたい。
芳垣さんは黙ったまま奥の部屋へと消えていた。
彼なりの優しさが、身に沁みて。
単純だと笑ってしまうくらい、すぐに涙が止まった。