赤ずきんは狼と恋に落ちる
この1カ月の間、忘れることはなかった。
恐らく、まだあと何カ月かは引きずるだろう。
いつ壊れてもおかしくない、曖昧で、不安定で、脆い関係。
分かっていたはずだ。
失恋なんて、時薬で癒えるもの。
いつだったか、誰かがそんなことを言っていた。
私が未練がましいことは、よく知っている。
千景さんといた日々を、ただの幸せな思い出にするのには、まだ時間がかかる。
ゆっくり、ゆっくり、消化していけばいい。
1年も経てば、「あんな時もあったな」と少しは思えるようになるだろう。
その時まで待っていよう。
待つのは得意だから。
***
「今日はありがとうございました」
泣き止んで10分も経った頃に、芳垣さんがカウンターに戻ってきた。
「もう大丈夫なの?」
「はい。何だかすっきりしました」
「そんな顔してる」
芳垣さんは、ふっと小さく笑うと、グラスを片付け始めた。
私も代金分プラス芳垣さんの優しさ分の代金を支払うと、ある提案を持ちかけてみた。
「あの、芳垣さん」
「何?」
「あの絵本、記事に取り上げてみてもいいですか?」
たった今、思いついた考え。
何となくだけど、当たるんじゃないかという根拠のない自信が、沸々と湧いてきた。
「私今月から女性向けのおしゃれな情報誌を担当することになったんです。この絵本を癒しグッズで売るって言ってましたよね?」
「そうだけど」
「なら何かしらのメディア媒体は必要じゃないですか?」
「まあね」
「お願いします!この絵本、記事に書かせて下さい!」