赤ずきんは狼と恋に落ちる
***
「こんなに上手くいくとは……」
気を抜くとすぐに頬が緩むから、全身に力を入れてポーカーフェイスを作る。
頑張った甲斐があり、結果、あの絵本は癒しグッズとして大いに高評価を得て、売れた。
記事を読んで買ってくれたという声もある、と芳垣さんからお礼の言葉もあり、何だか満ち足りた気分だ。
「この3カ月、よく頑張ったなあ」
自然に緩んでいく頬をペチペチと叩いて直しながら、ゆっくりコーヒーを飲んだ。
***
芳垣さんと話した夜の翌日から、私の仕事は急増した。
普段特にごり押ししない私がぐいぐいとあの絵本を推したら、どういう訳か、編集長が興味を持ってくれた。
「いいわね、佐々木」
同期の人から「氷の女王のよう」と言われ、恐がられているあの編集長に、話を聞いてもらえたことにほっとしたのも束の間、
「ぼさっとしてないで早く取りかかりなさい」
まさに「氷の女王」のような、冷やかな視線と言葉から、私のハードスケジュールはスタートした。
仕事以外のことを考える暇なんてなかった。
友人とランチするのを断ってばかりだったから、その1ヶ月後には誘われなくなった。
「次の号」だけと思っていたのに、「次の次の次まであるんだからよろしくね」と、冷やかな言葉プラス冷やかな笑顔を向けられた。
芳垣さんと芳垣さんのお姉さんに取材しに行った時は、「充実してそうだね」と半笑いされ、労いの言葉をたくさん頂いた。
これは有難いことだった。
何度も記事を書いて見せてはやり直し。
そのおかげで、文章を書くことに何の労力も感じなくなった。
前まで人に聞いていた編集作業も、少しはましになった。
「時薬」とはよく言ったものだ。
悩む暇もなく、ただただ仕事と向き合う。
「仕事が恋人」と、この年齢では痛い発言をしそうだから、誘われた合コンは全て断った。
付き合いが悪いと言われるのは、少し心苦しかったけれど、それを悩む時間もなかった。
そんな3カ月間だった。