赤ずきんは狼と恋に落ちる



久しぶりに定時で帰れることになった。


何日ぶりに夕暮れ時に帰れたんだろうと、やけに眩しいオレンジ色に目を細めた。




今日の夜は何を作ろう?


何か温かいものが食べたい。


そうだ、ビーフシチューでも作ろう。




にんじん、じゃがいも、玉ねぎにと、材料を指折り考えていると、まだ聞き慣れないスマートフォンの着信音が鳴った。




「誰だろう……?」




バッグでがさごそと探している間に、指が当たったのか、耳にあてた瞬間「遅い」の一声で始まった。




「もしもし?ああ、芳垣さん。ご無沙汰してます」

「何かやってた?雑音が入ってたから」

「いえいえ。それよりどうかしたんですか?」

「別に。忙しくないなら今夜うちに寄って。頑張ってくれたお礼がしたいから」

「いいんですか?ありがとうございます!」

「どういたしまして。じゃあね」






プツンと電話が切れた。

あの芳垣さんから「お礼」だなんて。


珍しいこともあるものだと思いながらも、やっぱり嬉しい。




今日の夜ご飯の献立はどこかへ行ってしまい、足取り軽く駅まで歩いていった。


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