赤ずきんは狼と恋に落ちる
「ちょっと早めのプレゼント。確か七夕の近くだって前に聞いたことがあったから。明日でしょ?誕生日」
視線を合わせずに早口でそう言うと、芳垣さんは向かいの椅子にガタンと座った。
「そんな話しましたっけ……?」
「打ち合わせの時少しだけ」
「覚えててくれたんですか?」
「何となくね」
つやつやとした苺に、きらきら光る苺ジャム。
プレートを彩る粉砂糖が、雪のようでとても綺麗だ。
「……早く食べなよ」
「もったいなくて……」
「写真撮ればいいじゃん」
「そうですね!」
まだ使いこなせていないスマートフォンのカメラで2枚写真を撮る。
これがアルバムの第1枚目になるのが、嬉しかった。
「いただきます」
サクッとフォークを立て、一口食べる。
甘酸っぱい苺に、サクサクのタルト生地。
柔らかいムースがふわりと溶けて、幸せな気分でいっぱいになる。
「どう?」
「すごく、美味しいです」
自分の語彙の少なさに、もどかしい気持ちになるも、もう一口食べるとそれも消えてしまった。
「本当?美味しい?」
「美味しいですよ!これ芳垣さんが作ったんですか?!上手ですね!」
「俺はレシピ通り作っただけ。
……前の店長のね」