赤ずきんは狼と恋に落ちる
3分ほど経つと、千景さんと彼が出てきた。
千景さんは、苦々しい顔で。
彼は、涼しい顔で。
千景さんは私の方へ歩み寄る。
その顔が、1ヶ月前に私を慰めてくれた時と、あまりにも似ていて。
安心からか、目尻から涙が一粒流れ落ちる。
「男って、皆狼なんだって」
千景さんの後ろから聴こえるのは、彼の淡々とした声。
帰る準備を済ませたのか、バッグを持ってこちらへと来る。
「あなたも……、ですか?」
自然に零れたその言葉。
彼は一瞬だけ、驚いたような顔をして、
「さあね?」
と言い、にやりと笑う。
「ああ、あなたって呼ぶの、何か嫌だ。俺は芳垣。覚えといて」
それだけ言ってしまうと、スタスタと歩いて行ってしまった。