赤ずきんは狼と恋に落ちる



彼が帰ってしまうと、私たち二人の間に沈黙だけが広がった。




「りこさん」




先に沈黙を破ったのは、千景さんだった。


顔を上げると、右腕を引っ張られ、




そのまま、千景さんの胸に収まる。







「おかえり」







その一言の後に、痛いほど締め付けられ。



背中に回っている腕の温かさが、じわりじわりと広がっていく。




こんな風に、ぎゅうっと抱きしめられたのは、いつ以来だろう。




別れるより、もっと、もっと前だった。





「ただ…、いま……」





震える唇を、ぎゅっと噛みしめ、「ただいま」と言う。




それだけなのに。


心が満たされていくような感じがした。







最後に、芳垣さんが言った言葉。




「男は皆狼」





同じ狼でも




千景さんじゃないと




嫌だ。


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