赤ずきんは狼と恋に落ちる
気まずい空気のなか、朝食。
カチャカチャと、箸がぶつかる音だけが、やけに響いてしまっている。
何も喋れない。
何を言えば良いんだろう……。
「りこさん」
「はいっ?!」
突然名前を呼ばれ、ガタンッと音を立ててしまった。
ついでに、右膝をテーブルで打つ。
「ちょ……、大丈夫?りこさん?」
「大丈夫、です」
ジンジンと鈍い痛みが広がるなか、千景さんの次の言葉を待つ。
「……昨日の、気にしとる?」
来ちゃった。
「あ……」
「いいえ」なんて、とても言えない。
素直に「気にしてます」と言えたら、どれだけ楽なものか。
「普通、気にするもんやろうなぁ?」
困ったような笑顔を向けられ、私はまた、何も言えなくなる。
「変なこと訊いてごめんな?りこさん、今日も会社やし、はよ出らんと」
今、言わないと。
早く。
早く。
早く言わないと。
「………ちょっとだけ、気にしてます」