赤ずきんは狼と恋に落ちる
ちほの後ろ姿だけが、鮮明に映る。
バタンッ、とドアが閉まり、カランカランとベルが虚しく音を立てた。
「……私、ちほのこと考えているつもりだったんですけど、全然、考えてあげられなかったみたいですね」
無理に千景さんに笑ってみせると、千景さんもため息を一つ零す。
「妹さんにしちゃ、りこさんに言い寄って家にまで住みついとる変な男としか思えへんやろうな……」
ちほの飲み残したカップを下げ、
「しばらく、戻らんどくな」
と言って、奥へ行ってしまった。
一人きりのバーは、静かで、静かで。
もう一度、ちほのことを考えようと思っても、何を考えていいのか、何を話せばいいのか。
ちほに、分かってもらおうと思ってた自分の考えが甘いのか。
分からなくなった。