赤ずきんは狼と恋に落ちる
電話口から聞こえるのは、紛れもなくちほの声。
何でちほがお店に?
そう思ったが、今は会話の方が重要だ。
それは後で訊こうと、さらに電話口を耳に近づける。
『あんな事言って、怒っちゃって……。お姉ちゃん、困るって分かってるんですけど……』
『気にしていませんよ。突然お姉さんが見ず知らずの男と同居してるなんて聞いて、驚かない人は居ませんでしょうし』
丁寧な標準語で、落ち着きを払った千景さんの声もした。
『……私、昔からお姉ちゃんにくっついてばかりいたんです。お姉ちゃんぐらいしか、私の話をちゃんと聞いてくれなくて……。
お姉ちゃんが別れたって聞いて、ちょっと、嬉しかったんです。……嫌な妹ですよね。お姉ちゃん、その人の話をしてる時、嬉しそうで。でも、幸せそうには見えなかったんです。
そういうの……、何だか、お姉ちゃんがもっと遠くに離れていっちゃうような気がして……っ、幸せじゃないのに…、……誰かのものになるなんて、嫌……!』