赤ずきんは狼と恋に落ちる
「気を付けてね。あと、お父さんとお母さんにもよろしくって伝えてて」
マンションの下、呼んでおいたタクシーの前で、大きなバッグを両手に持つちほに、私はあれこれと言う。
「分かったって!じゃあ、お姉ちゃんも宇佐城さんによろしくって伝えてて」
肩に掛けているバッグを背負い直すと、ちほはタクシーへ乗り込む。
「宇佐城さんと喧嘩したら、私がすぐ行くからね!」
最後の最後に、それを言われて思わず笑ってしまった。
本人の前では恥ずかしくて言えないけれど、ちほが妹で良かったなんて、柄にもなく思う。
「ありがとう、ちほ」
「うん。じゃあ、またね」
ヒラヒラと手を振ると、タクシーがゆっくりと動き出す。
そのまま真っ直ぐ走り出し、タクシーは小さくなって消えた。
ちほが来てくれて、良かったかもしれない。
ずっとずっと、言わなきゃいけないと思ってたことと、
半強制的に、千景さんを家に置いておくこと。
その二つが、都合良く終わったことに、私も安心する。
図太い、
それでも、今の私には、これで良いんじゃないか。
「戻って来てくれるよね……」
朝方が特に冷えるこの季節。
外で千景さんを待つのは辛いかもしれない。
だけど、何となく待っていたい気分だ。
緩く巻いていたマフラーを、きつく巻き直し、引っ掛けていたコートのボタンを全部閉め。
彼がここへ来るのを、のんびりと待つことにした。