赤ずきんは狼と恋に落ちる
「りこさん、ちょっとこっち来て」
千景さんが小さく手招きをしている。
そろりそろりと歩きながら、レジの近くまで行くと、私が持っているマグカップを指差し、「これを」とだけ言っている。
すぐに店員さんが紙を渡し、千景さんは、慣れた感じでサラサラとボールペンを走らせていく。
私がぼんやりとその様子を見ている間に、店員さんが「ありがとうございました」と、丁寧にお辞儀をしていた。
よく分からずに、お店の外に出ると、「はい」と、千景さんから何か渡される。
「りこさんに。ちょっと早いけど、プレゼントな」
綺麗にラッピングされた、小さな箱。
「あのカップ好きそうだったし、りこさん用に買っとこうかと思ったんや」
中身は先ほどの小さなマグカップのようだ。
「ありがとうございます!」
さっき訊いてくれたのは、私に買うためだったのかと思うと、嬉しくて仕方がない。
もう、クリスマスも近い。
あの夜から一緒に居て、3ヶ月過ぎた。
もっともっと、近い存在になりたいと思うけど。
私には、やっぱり今みたいな関係が一番心地好いのかもしれない。
ほくほくとその小さな箱を見つめながら、「そうだ、そうだ」と言い聞かせた。