だんご虫ヒーロー。
「…篠山さん?」
ナースステーションから急に呼ばれて、キョロキョロと辺りを見回す。
ステーションから小走りで出てきたのは、彼のプライマリーナースの根元(ねもと)さん。
プライマリーナースは、1人の患者を1人の看護師が入院から退院までを一貫して担当し、その患者の全ての看護責任を持つ人のことだって彼から教えてもらった。
私は馬鹿だからよく分からないけど、この根元さんが彼の担当の看護師さんということは分かった。
「…根元さん、お久しぶりです。
あの彼……彼方は元気ですか?」
彼というのが恥ずかしくて名前で呼んだ。
今思えば呼び捨てじゃなくて、君付けしとけばよかった。
私の緊張を察したのか、根元さんはふふっと笑った。
「…原崎さんは相変わらずお元気です。
今日は彼女が来るからって、午前中にお風呂に入ったんですよ」
わ、よ、余計なことを……!
彼女が来るからとか言わなくていいから!
心の中で照れていても表情にすぐ出てしまって、根元さんには丸分かり。
根元さんは綺麗な顔立ちをそのまま活かして、上品に笑っている。
「…今もきっと本を読んで待ってますよ。
会ってあげてください」
根元さんは軽く私に頭を下げて、また忙しそうに小走りで立ち去った。
根元さん忙しそうなのに、私のために立ち止まってくれたんだ。
根元さんの後ろ姿を見送り、私は彼のいる病室へと向かった。